境界をほどく光の迷宮へ──
世界8都市に広がる teamLab ミュージアムをめぐる旅
「一歩踏み入れた瞬間、身体の輪郭が溶けていく」──
そんな声を何度聞いただろう。teamLab の常設館は今や、東京から中東まで
8か所に点在し、年間数百万人を引き寄せる “デジタル巡礼地” となっている。
本稿では New York Times(2025-05-16) が取り上げた8館を
物語仕立てで歩いてみよう。
- 東京・麻布台ヒルズ|teamLab Borderless
- 東京・豊洲|teamLab Planets TOKYO DMM.com
- マカオ・ザ ベネチアン|teamLab SuperNature Macao
- マイアミ・ウィンウッド|Superblue Miami – Every Wall is a Door
- ニューヨーク・チェルシー|teamLab: The World of Irreversible Change
- シンガポール・マリーナベイ|Future World: Where Art Meets Science
- 北京・朝陽区|teamLab Massless Beijing
- 上海・黄浦江エリア|teamLab Borderless Shanghai
- アブダビ・サディヤット島|teamLab Phenomena Abu Dhabi
- ジェッダ歴史地区|teamLab Borderless Jeddah
- 終わりなき“Borderless”を旅する
東京・麻布台ヒルズ|teamLab Borderless
2024年2月、摩天楼の地下に“ボーダレス”が帰ってきた。足を踏み入れると、
高さ10m超の空間を滝が流れ落ち、無数の光球が浮遊する。
作品は部屋を越えて移動し、観客の動きに応じてリアルタイムに姿を変える。
展示は一筆書きの順路ではない。立ち止まれば背後から光が追い越し、
先へ進めば滝が背中を押す。地図のない迷宮で頼りになるのは
“身体の勘”のみだ。「迷うこと」が鑑賞体験の本質だと気づかされる。
チケット(3,800-4,800 円)は日時指定制、人気枠は発売と同時に消えるので要注意。
東京・豊洲|teamLab Planets TOKYO DMM.com

靴を脱ぎ、膝まで水に浸かり、花の雲に埋もれる──
豊洲の〈Planets〉は五感をすべて預ける“ボディ・イマーシブ”美術館。
2025年1月の拡張で展示面積は1.5倍になり、新エリア〈Forest〉では
身体能力さえ試される立体アスレチックが待つ。
1日の終わりに再び足を拭くと、かすかな潮の匂いとともに
“作品の中にいた時間”が体温として残る。
Planets は美術館というより、一種のspaに近いのかもしれない。
マカオ・ザ ベネチアン|teamLab SuperNature Macao

カジノの街に忽然と現れる5,000㎡の光の迷宮。
鏡床と高天井が無限反射を生み、視界の上下左右が曖昧になる。
ここでは“重力までもインターフェース”だ。
作品を共有するのは目の前の人だけではない。
隣室の影が光壁を越えて波紋を起こし、
“見えない隣人”との対話が始まる。孤独とも群衆とも違う、
新しい関係性のフォーマットがここにある。
マイアミ・ウィンウッド|Superblue Miami – Every Wall is a Door
2021年に開業した体験型アートセンター Superblue Miami。
50,000 ft²(約4,600㎡)の空間に、teamLab のデジタル花群や
泡の海《Massless Clouds Between Sculpture and Life》が展開し、
触れるたびに〈死と再生〉を繰り返すインタラクティブな風景が広がる。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
- 所在地:1101 NW 23 St., Miami, FL(Rubell Museum 向かい)
- 営業時間:10:00–20:00(要オンライン予約)
- チケット:一般 $36 / 学生 $34+Tax(特別展示は別途)
ニューヨーク・チェルシー|teamLab: The World of Irreversible Change
teamLab が米国で10年ぶりに開催したソロ展(2024 年5 月10 日–8 月16 日)。
壁一面に投影された《Irreversible Change》は、観客の動きで
生態系が生成と崩壊を繰り返す “一枚の〈時間〉の絵巻”。
ニューヨークでは常設館計画が pause となった今、
「都市の変化そのものを取り込む」プレゼンテーションと言える。
- 会場:Pace Gallery(510 & 508 W 25th St., NYC)
- 鑑賞料:無料(要事前予約)
- 備考:teamLab の米国常設館は計画再調整中(Brooklyn Industry City 計画は2019年より停止)
シンガポール・マリーナベイ|Future World: Where Art Meets Science
2016 年開幕の ArtScience Museum 常設展。
「City in a Garden」「Exploring New Frontiers」など
20点超が連続し、花・水・宇宙が時間とともに変化する。
2025 年現在リニューアル工事のため一時休館中だが、
2026 年には館内に teamLab Borderless Singapore が
新設される計画が進行している。
- 所在地:ArtScience Museum, Marina Bay Sands
- 通常料金:大人 S$25 / 子ども S$20(日時指定)
- 併設:〈Digital Light Canvas〉(The Shoppes 内)も teamLab 制作
北京・朝陽区|teamLab Massless Beijing
2022 年12 月に Chaoyang Joy City 10F にオープンした
〈Massless〉は、物質的境界をテーマに
40点以上の大型作が “無相” の世界を構築。
雲の中を歩く《Massless Clouds Between Sculpture and Life》や
光球が共鳴する《Resonating Microcosms – Solidified Light Color》など、
身体感覚を拡張する作品群が常設される。開館時間:平日 12:00–18:30/週末 10:30–20:00
- チケット:平日 ¥228〜/週末 ¥268〜(人民元換算){index=7}
上海・黄浦江エリア|teamLab Borderless Shanghai
2019年の開館以来、倉庫のような巨大空間で
都市と自然のイメージが往来してきた〈Borderless Shanghai〉。
2024年2月にいったん幕を閉じ、現在は移転再開を準備中――
作品が“漂流”するように、ミュージアムそのものも街を旅する。
新天地の発表はまだ先だが、黄浦江の川面に再び光の水粒が落ちる日を
想像するだけでわくわくする。上海という「変化を宿命づけられた都市」と
teamLab は好相性だ。
アブダビ・サディヤット島|teamLab Phenomena Abu Dhabi

2025年4月、ルーヴルとグッゲンハイムに挟まれた砂州に
“雲”のような建築が出現した。700台のプロジェクターが17,000㎡を洗い、
〈Wet Zone〉と〈Dry Zone〉がダイナミックに環境を取り込む。
足首まで水に浸かり、頭上から落ちる光の粒に触れたとき、
目の前で生まれる現象は「私」と「世界」の共同作品になる。
作品が完成しないのは、人がいなくなるまで終わらないからだ。
ジェッダ歴史地区|teamLab Borderless Jeddah

2024年6月10日、中東初の常設館が
ユネスコ世界遺産アル-バラド地区のラグーン沿いに開幕。
砂の街と紅海の青が交差する場所で
teamLab は80点の作品を放った。
ミナレットの呼びかけと光のパーティクルが重なる夕暮れは、
祈りとも祝祭ともつかない新しいリズムを奏でる。
かつて交易港として栄えたジェッダにとって、
“境界の消失”は歴史の延長線なのかもしれない。
終わりなき“Borderless”を旅する
8つの館を巡ると見えてくるのは、teamLab が一貫して問い続ける
「世界と自分の境界はどこか?」という哲学だ。
作品同士が溶け合い、人と自然が交差し、都市と砂漠が接続する。
次にあなたが訪れる場所で、どんな境界がほどけるのか──
その答えは、あなた自身の体験とともに更新され続けるだろう。
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