ニューヨーク、トライベッカのブロードウェイ392番地。その2階にある Andrew Edlin Gallery(アンドリュー・エドリン・ギャラリー)を訪ねてきました。
このギャラリーのオーナーであるアンドリュー・エドリンは、毎年3月にニューヨークで開かれるアウトサイダー・アート・フェア(OAF)を所有し、運営している人でもあります。

ギャラリーは2025年の夏まで、ロウアー・イースト・サイドのバワリー212番地にありました。10年で83本の展覧会をこの場所で開いたそうです。
最後の展覧会の題は「So Long, Bowery!」。出展歴のある作家を集めた、お別れの企画でした。2025年9月に現在のトライベッカへ移っています。すぐ近くに P·P·O·W やアンドリュー・クレプス、マリアン・グッドマンが並ぶ一帯で、ギャラリーが集まっている通りです。

ダーガーを扱っていたギャラリー
開廊は2001年。独学のアメリカ人作家と、ヨーロッパのアール・ブリュットの作家を早くから紹介してきたギャラリーです。
なかでも大きいのが、2006年から2011年まで、ヘンリー・ダーガーのエステート(遺産管理団体)の独占的な代理人を務めていたことです。2020年にも「The Double-Sided Dominions of Henry Darger」という展覧会を開いています。
扱ってきた作家には、ソーントン・ディアル、ラルフ・ファサネラ、ユージン・フォン・ブリュンヘンハイン、ベヴァリー・ブキャナン、ジョー・コールマン、デラ・ウェルズ、メルヴィン・ウェイ、ダン・ミラーといった名前が並びます。独学の作家と、美術教育を受けた作家の両方を、分け隔てせずに扱ってきたギャラリーです。
作品だけでなく、本を出版することにも力を入れていて、ダーガー、ディアル、ファサネラ、ブリュンヘンハインなどの作家について自ら出版してきたそうです。アメリカの画商の団体 ADAA にも加盟しています。

アウトサイダー・アート・フェアとの関わり
著名なアートフェア、「アウトサイダー・アート・フェア」が始まったのは1993年です。2012年、エドリンの関連会社 Wide Open Arts がこのフェアを買い取り、以来ずっと単独のオーナーとして運営しています。
2026年3月の第34回は、チェルシーのメトロポリタン・パヴィリオンで開かれ、68軒が出展しました。うち13軒が初参加です。入場者は前の年に4割増えていて、その大半が初めての来場者だったと報じられています。今年はさらに記録を更新し、会場が何度も入場制限に達しました。
ギャラリーのほうも、アート・バーゼル・マイアミビーチやアート・バーゼル・パリ、アーモリー・ショー、フリーズ、FIAC、アート・ブリュッセルなど、メジャーな大型フェアに出展を続けています。
「Conduits of the Unseen」
訪問時に開かれていたのは「Conduits of the Unseen: Women Artists Imagine Other Worlds」(2026年9月9日〜10月31日)でした。タイトルは「見えないものの通り道」といった意味です。
20世紀のはじめから現在までの女性作家17人を集めた展覧会で、企画はスーザン・L・アバース。バード大学の美術史・視覚文化プログラムの教授で、シュルレアリスム、スピリチュアリズム、錬金術、ラテンアメリカ美術、そしてアウトサイダー・アートを教えている人です。
別の現実、霊、宇宙的な力、意識の別の層。そういうものに目に見える形を与えようとした作家たち、という括り方をしています。出自も国も時代も信仰もばらばらで、共通しているのは内側の像を形にしようとした点だけ、と紹介されています。

ポーリナ・ピーヴィ
展覧会の軸になっているのは、アメリカの作家で霊媒でもあったポーリナ・ピーヴィ(1901–1999)です。
ラカモと呼ぶ存在から受け取った宇宙観を、何十年もかけて絵や素描に書き写していった人だそうです。会場では、突き当たりの壁だけを青く塗った一角に、彼女の油彩がまとめて掛けられていました。ギャラリーの紹介によると、ラカモと交信するために自分でつくった仮面も出品されています。
ギャラリーは2023年に、この作家についての初めてのモノグラフ『Paulina Peavy: Etherian Channeler』(著者ローラ・ウィットコム)を自ら出版しています。

マッジ・ギル
会場にはマッジ・ギルのインク画も並んでいました。ヘンリー・ダーガー、アロイーズ、ウォルフリらと並ぶ、20世紀前半のアウトサイダー・アートの代表格の女性作家です。

手のひらに載るほどの8.9×14cmの小品もあれば、縦に63cmある細長い作品もあります。

霊媒、神智学、シュルレアリスム
ほかの出品作家も並べておきます。
ドイツ生まれのアガサ・ヴォイチェホフスキー(1896–1986)は、ニューヨークで交霊会を開き、霊視と癒しを行っていた人です。ガラスケースには、交信で受け取ったという文字をびっしり書き込んだノートが置かれていました。壁には、何人もの人物と小さな顔が重なり合う鉛筆の素描が掛かっています。


ほかに、依頼人の手を描いた水彩も出品されています。そこには、依頼人が見覚えのある顔が浮かび上がるのだそうです。
アデル・ワトソン(1873–1947)は、象徴主義的な風景を描いた画家です。緑の丘の上を白い裸婦が飛んでいく油彩が掛かっていました。

アグネス・ペルトン(1881–1961)は神智学とアグニ・ヨーガの実践者で、瞑想中に得た像から半抽象の絵を描いた作家です。ニューメキシコ州サンタフェの超越主義グループに大きな影響を与えました。代表作のひとつ《The Being: A Transcendental Vision》が出ています。
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の共同創設者、ヒラ・リベイ(1890–1967)の水彩《Rhythmic》(1940年頃)も、長い壁の端に掛かっていました。
シュルレアリスムからは、レオノーラ・キャリントンとレオノール・フィニ。キャリントンは1970年に書いて上演されなかった戯曲『Opus Siniestrus』が出ています。家父長制と戦う老女の話で、人類最後の卵をめぐる筋書きだそうです。キャリントンの《The Window》(1996年)は縦15cmほどの小さな絵で、分厚い金色の額に収まっていました。

ガートルード・アバークロンビーの《Toddy, Possim and Christine》(1954年)は、夜の草むらから猫が3匹、顔を出している小さな油彩です。ほかにエマ・クンツ、シルヴィア・フェイン、イレーヌ・ライス・ペレイラなどの作品も出ています。

訪れるなら
「Conduits of the Unseen」は2026年10月31日まで開かれています。
住所は 392 Broadway, 2nd Floor, New York, NY 10013。開廊は火曜から土曜の10時から18時まで、入場は無料です。地下鉄はカナル・ストリート駅が近く、同じ建物の別のフロアに P·P·O·W が入っています。トライベッカのギャラリーをまとめて回るときの起点になる場所です。
文・写真:art on 編集部