Pace Gallery|経営不振と組織再編の最新動向(2025年5月版)

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 Pace Galleryの経営不振に関する最近の報道 (2025年5月版)

以下は 2024 年夏〜 2025 年 5 月の期間に報じられた Pace Gallery(ペース・ギャラリー)の経営不振に関する主要動向をまとめたものです。対象とした報道は一般紙からアート専門メディアまで幅広く、削除・改訂記事についてはウェブアーカイブで確認を行いました。

ギャラリー拠点の閉鎖・縮小の動き

ニューヨーク・チェルシーにあるペース・ギャラリーの旗艦本社ビル(2019年開館)。この8階建て・約7000平方メートルの施設は賃料だけで月額約70万ドル(1億150万円)、年間約 840万ドル(12億1,800万円)かかると報じられており、ギャラリーの財政を圧迫している(※ペース側はこの数字に異議を唱えています)。
現在のところ、ニューヨークやロンドン、ソウル、香港といった主要都市のギャラリー拠点そのものが正式に閉鎖されたとの報道は出ていません。しかし、大規模な拡張路線の維持負担から、運営縮小の兆候が見られます。

Pace Gallery, 540 West 25th Street, New York.

例えば 2024年10月、ペースはパリで開催されたアートフェア「Paris+ par Art Basel」への出展を直前で取りやめましたが、その理由は財政上の困難によるものと伝えられました。また、ペースが出資していた体験型アート事業「Superblue」からも、資金面・政治面の問題に直面して撤退を余儀なくされ、同プロジェクトを率いていたマーク・グリムチャー(Marc Glimcher)氏も関与を減らす結果となりました。さらに、同ギャラリーがニューヨーク拠点で展開していた実験的プログラム「ペース・ライブ (Pace Live)」については、担当キュレーターの退任に伴い存続が不透明になりましたが、ギャラリーはその後も継続予定であると表明しています。これらの動きは、新規拠点の拡大よりも既存経費の見直しや事業の取捨選択に舵を切っている兆しと言えるでしょう。

スタッフの解雇・人員整理

ペース・ギャラリーでは、人員削減や幹部の退任も報じられています。2024 年夏ごろ、同社では上級幹部 3 名が相次いで離職しました。その内訳は、新設ポジションに就いていたゲイリー・ウォーターストン氏(グローバル営業・業務担当副社長)、サラ・レヴィン氏(キュレーター兼アーティストマネジメント担当シニアディレクター)、マーク・ビーズリー氏(キュレーターディレクター)の 3 名です。ウォーターストン氏はガゴシアンから招聘されわずか 6 か月で退社する形となり、ロンドン在住のままニューヨーク本部との連携に支障が出たことが一因と説明されています。

レヴィン氏とビーズリー氏についても「業務上の優先事項を見直す中で重複する役割と判断された」として、ポジション整理の一環で解雇されたことが明かされました。ペースの広報担当者はこの人員削減について、「どの企業でも行うように定期的に優先事項を評価し、それに応じて新規採用も行えば不要な役職の見直しも行う」ものであり、組織を引き締めつつ「ギャラリー本来の成果を継続して提供するため」の措置だと説明しています。またウォーターストン氏退任は「相互に合意した円満な決定」であり「新設のグローバル役職をロンドン拠点で成功させることは難しかった」というコメントも出されています。

財務状況の悪化と資金繰り

ペース・ギャラリーの財務状況の苦境については、2025 年に入り複数のメディアが報じています。世界的なアート市場の減速により、パンデミック後のブーム期に比べて取引額が大幅に落ち込み、メガギャラリー各社も厳しい経営判断を迫られています。ペースも例外ではなく、近年の拡大戦略(各地への大型ギャラリー開設や本社ビル建設など)と市場減速とのギャップに苦しんでいると指摘されています。

ニューヨーク本社ビルへの約 9,820 万ドルもの内外装投資や高額賃料の負担、さらにロンドンやソウル、香港などへの積極展開は、アート市場が好調であることを前提とした支出でした。しかし 2022〜2024 年にかけて市場が停滞すると、それら固定費が重くのしかかり、結果として人員整理や出展縮小といったコスト削減策に踏み切らざるを得なくなっています。

ペースが 2024 年末から外部投資家の支援を模索しているとの報道もあり、内部関係者の話として「ペースが売りに出ているわけではないが、かなり以前から投資家を探しているのは事実だ」と伝えられています。実際、2024 年には収支悪化から約 100 人規模の人員削減に踏み切ったとの報道もあり(※こちらはオークション大手サザビーズの例と並べて報じられていますが、ペースも同様の圧力下にあるとみられます)、ギャラリーの信用格付けの低下など財務面の逆風も伝えられています。

サザビーズとの資本提携交渉の噂

こうした状況下、オークション大手サザビーズとの戦略的提携に関する報道が 2025 年 3 月に浮上しました。ARTnews 誌の報道を端緒に、サザビーズがペース・ギャラリーに対し「かなりの規模の出資」を検討しているとの情報が伝えられたのです。この提携が実現すれば、伝統的に独立系のギャラリーとオークションハウスとの関係性を大きく変える新たなビジネスモデルになる可能性があります。

具体的なスキームはまだ流動的とされていますが、狙いとしてはペース側が出資による財務的支援(膨れ上がった固定費の軽減)を得る一方、サザビーズ側はペースの抱える有力アーティストや顧客ネットワークへの直接的なアクセスを獲得し、プライベートセールス(オークション外取引)の強化につなげるというものです。両社とも近年のアート市場の停滞を受けて新機軸を求めており、この提携話はそうした思惑の合致といえます。

現在のところ、ペース・ギャラリーもサザビーズも公式なコメントは控えているものの、関係者は「こうした話し合いが行われているのは事実」であると認めており、その背景には先述の通りペースの資金需要の高さがあると見られています。業界誌の Puck はこの報道について「詳細が乏しい」としながらも、ペースが長らく投資を求めてきた文脈を踏まえれば信憑性は高いとの見方を示しています。

所属アーティストへの影響・契約解消

経営不振は所属アーティストにも影響を及ぼしつつありますが、2025年前半の時点で公に報じられた大規模な離脱劇は多くありません。ただし、著名アーティストの離脱がひとつ確認されています。現代美術のスターであるジェフ・クーンズが、ペース・ギャラリーとの契約関係を2024年9月に終了していたことが報じられました。

クーンズは 2021年にガゴシアンからペースに移籍した目玉作家でしたが、わずか数年での「短命な代理関係」は、クーンズ作品の製作に巨額のコストがかかる割に近年の販売が伸び悩んだことが原因だと指摘されています。つまり、市場環境の悪化により売上高の大きい作家でさえギャラリーに負担を強いる状況となり、双方の利益が見込めない場合には契約解消に至るケースが出てきたということです。

クーンズ以外に顕著な離脱の報は現時点ではありませんが、ギャラリーによる売り上げ不振が長引けば有力作家の移籍が起こる可能性も示唆されています。一方でペースは新たな作家との契約も続けており(例:2024 年にベルリンのアリーチャ・クワデが加盟)、65年の歴史で培ったアーティストとの関係性を維持すべく努めているようです。

経営陣のコメント・声明

ペース・ギャラリー経営陣は、公には慎重ながらも所々で現状に触れています。CEO でオーナーのマーク・グリムチャー氏本人は直接経営不振について詳細に語ってはいないものの、広報を通じたコメントやインタビューからいくつか示唆される発言があります。

Pace Gallery, Marc Glimcher(CEO)

先述の人員整理に関して、ペースのスポークスパーソンは「我々も他のビジネス同様に定期的に優先事項を評価しており、それに伴い人員面でも新規採用と冗長なポジションの見直しを行うことがある」と説明し、必要なリストラ策であることを強調しました。また、幹部の退任時には「○○氏とは相互合意の円満な形で袂を分かった」といった個別コメントを出しつつ、退任後も該当事業(ペース・ライブなど)は継続する旨を伝えています。

グリムチャー氏は2025年にギャラリー創立65周年を迎えるにあたり「I am in love with the present.(私は現在という時代に恋をしている)」と語っており、困難な中でも前向きな姿勢を崩していません。しかし裏を返せば、同氏が近年模索しているように、従来とは異なる資本モデルや投資の受け入れによってギャラリーの将来を切り拓こうとしているとも言えます。実際、「新たな文化を創り上げ、人々が尊重され力を発揮できる場所にするのが自分の責務だ」とする過去の声明や、投資交渉報道に対して沈黙を守る姿勢からは、現在の困難を乗り越えるために内部改革と外部支援の両面で対応しようとしている経営陣の姿勢がうかがえます。

まとめ

人員のスリム化と外部資本の導入によって固定費の圧縮と収益基盤の再構築が急務とみられます。現時点で正式な拠点閉鎖は発表されていませんが、拠点ごとの運営コスト見直しや、プライマリーマーケット偏重からの収益モデル多角化(プライベートセール、コラボレーション、体験型事業の刷新など)が鍵となるでしょう。

出典記事(URL一覧)

※為替レートを 1ドル=145円 として計算

 

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