【アートコレクションの作法】名著『How to Collect Art』から学ぶ|第1部 コレクションにおける動機と戦略

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名著『How to Collect Art』から学ぶ|第1部 コレクションにおける動機と戦略

How to Collect Art(著者 Magnus Resch)

今回ご紹介する書籍『How to Collect Art』は、初中級コレクター向けの実用ガイドです。

アートコレクションにおける、予算と目標の立て方、嗜好の言語化、作家・ギャラリーのリサーチ、価格やマーケットの理解、フェア/オークションでの買い方、保管方法、保険、作品売却までをデータと実例で優しく解説してくれる好著です。失敗しないアート作品購入のプロセスや人脈づくりの要点なども短時間で掴めます。

 

著者紹介:マグナス・レッシュ(Magnus Resch)

マグナス・レッシュ(Magnus Resch, PhD)は、ドイツ出身のアートマーケット研究者/起業家・著者。1985年頃生まれで、現在の拠点はニューヨーク市。現職はイェール大学マネジメントスクールでアートマネジメントを教えています。

出典:FAD Magazine

マグナスは起業家としても有名で、コレクター・データベースのLarry’s Listと、作品画像で相場等を照合する「Magnus(Shazam for Art)」を創業し、同社にはレオナルド・ディカプリオが投資・助言を行っています。著書は『How to Collect Art』『How to Become a Successful Artist』『Management of Art Galleries』ほか。科学誌Scienceにも論文を発表しています。

本記事は著書『How to Collect Art』第1部の内容をもとに、再現性のあるコレクションの作り方を日本語で解説してくれます。

データや調査に基づくアプローチ

本書の大きな特徴は、定量的なデータ(統計・ネットワーク分析)に加え、定性的なアプローチ(200超のコレクター聞き取り)から構成されている点です。
  • データ解析:ギャラリーの階層や価格の相場観を出すため、50万人以上のアーティストの価格・経歴データを横断分析。
  • 学術研究:アーティストの評価と成功を定量化した6年規模の研究を共同で実施し、トップ誌『Science』に発表(2018)。本書の理論的基盤に。
  • 大規模サーベイ:コマーシャルギャラリー8,000件への調査(売上・利益・運営実態)をまとめた『Global Art Gallery Report』など、ギャラリー経営のデータを参照。
  • コレクター・データ:自身が創業したLarry’s Listのコレクターデータベースを用いている。
  • 現場ヒアリング:ディーラー、アドバイザー、キュレーター、主要コレクター等200名超へのインタビューで、統計では拾いにくい情報を補完。
  • テック由来データ:作品画像認識アプリMagnusを通じた価格・在庫等の収集で、市場の実勢を捕捉。

巻末にはインタビュー調査の協力者が多数クレジットされています。

これらの定量(統計・ネットワーク分析)+定性(200超の聞き取り)**を組み合わせ、価格の妥当性、ギャラリー選定、コレクションの再現可能性を示しているのが本書の特徴です。

第1部のキーメッセージ

  • マーケットの“値上がり神話”に依存しない。収集は 未来志向 の営みで、学び・関係・責任ある購買 がポイント。
  • 最初の1点は小額でOK。経験や目利き、ネットワークを育てる。
  • コレクションは「自分を映す鏡」。投機ではなく 収集、支援 を目的に。

1|人はなぜアートを買うのか

国際調査の主要結果は次の通りです。 美的・装飾的な観点(87%)、情熱や個性の表現(86%)、アーティストや文化の支援(79%)。
投資収益の期待(75%)、資産分散(72%)インフレへのヘッジ(68%)も無視はできませんが、購入の中心は「好き」と「支援」などで占められています。
著者自身も「家に置きたいか」で選び、買うことをアーティストの創作継続を支える責任と位置づけています。

2|収集の3戦略

1) バタフライ型

目的

視野を広げ、審美軸と市場感覚をつかむ。ジャンル・素材・地域・価格帯を意図的に散らして購入し、比較経験を増やす。

具体アクション

  • 上限予算:年◯◯万円/1点上限10–30万円(版画・ドローイング中心)
  • 配分例:紙作品6・写真2・小作品2(=6:2:2
  • フィールドワーク:毎週ギャラリー1–2件、毎月オークション下見1回、年2回はアートフェア
  • 記録:購入前後に「購入理由/違和感/展示映え」をメモ → 半年で見直し
  • エディション運用:同作家で複数年・複数技法を試し、作家の幅を把握

メリット/リスク

  • ◎ 嗜好・耐性(サイズ・素材・保存性・生活導線)の理解が早い
  • △ 分散しすぎて“核”がぼやける/額装・保管コストが積み上がる

卒業の目安

何に心が動くか/飽きるか」を言語化できたら、②テーマ集中へ。

2) テーマ/ジャンル集中

目的

共通の文脈(ストーリー)で束ね、展示・出版・貸出に耐える“まとまり”をつくる。

軸の作り方(例)

  • モチーフ:ポートレート×現代社会/風景×抽象化
  • 地域/世代:日本80–90年代生まれ/東アジア現代写真
  • 素材:紙の実験/織りとペインティングの交差

具体アクション

  • 年間購入:3–6点に絞り単価を上げる
  • 所蔵の塊:1テーマにつき最低15–20点で「1章」を形成(展示・小冊子に耐える)
  • 調査資料:作家年表/展覧会歴/批評テキストを1枚スライドに集約
  • 展示計画:年1回のキュレーション展示(自宅/ギャラリー)+貸出を視野

メリット/リスク

  • ◎ 断片的な収集がコレクション論に昇格
  • △ 時流依存のテーマは陳腐化リスク → 「10年後も語れる問い」を軸に

成功指標

  • 同テーマで2回以上の展示/貸出
  • テーマ内で批評・レビュー獲得/ZINEやカタログ発行

3) 作家集中

目的

選んだ作家に長期コミットし、節目作(キーワード作)を押さえてアーカイブ的価値をつくる。

対象の選び方

  • 作品の一貫した問いと深化の兆し(シリーズの発展軸)
  • 公的機関/批評のトラックレコード、良質なギャラリーの代表
  • 作家本人のアーカイブ意識(資料保全・キャプション精度・エディション管 つの戦略

 

コレクションする際

  1. バタフライ型:短期間に幅広く試し、見る訓練と嗜好の把握に最適。
  2. テーマ/ジャンル集中:抽象・風景・特定地域/文化圏など共通軸で集め、文脈を強化。
  3. 作家集中:少数作家を長期で深掘り。展覧会の前後や重要期に伴走し、まとまりあるコレクションへ。

実務ヒント

  • 初期は上限を決める(例:15,000ドル超は買わない)。
  • 版画・ドローイングなど紙作品で所有経験を積む。エディションは複数点で変遷を学ぶのも有効。
  • 収集のために買う(Buy to collect, not to flip)」を徹底。

3|どこから始めるか(実践手引き)

観察と言語化

  • 時間をかけて見て、何を見ているかを言葉にする。これが目利き(審美眼)の土台。

行く:ギャラリー/フェア/オークション

  • ギャラリー巡り:地元のリストを作り、毎週最低1軒。展示を比較し、スタッフと対話。
  • アートフェア:一度に多くのギャラリーを俯瞰でき、学習効率が高い。
  • オークション:入門ロットやデイセールで比較的低予算から経験値を得る。下見室での「生の比較」が学び。

つながる:オンラインとコミュニティ

  • Instagramで作家・ギャラリー・批評家・フェア・美術誌をフォローし、作品と文脈を継続的に浴びる。
  • オンライン・プラットフォーム(例:Saatchi Art, Singulart)は物理訪問の補完に。
  • コレクターズ・クラブ/勉強会:少額会費でレクチャー、スタジオ訪問、ネットワークを獲得。

買う:小さく始め、大切に選ぶ

  • 20〜1,000ドル台の版画・写真・ドローイングからでOK。
  • 若手や友人アーティストから直接買うのは最大の支援であり学び。
  • 再売却を前提にせず、長く一緒に暮らせるかで判断。

4|ケーススタディ:ヴィクトリア・ロジャース

ニューヨークの若手コレクター。アフリカ系アメリカ人と女性作家のみを対象に、作家との直接的関係と制度的ネットワーク(美術館・財団)を活かし 収蔵への橋渡しを行う。コレクションを「アート市場の不均衡を変える」という明確な目的と自身の情熱に結びつける 責任ある購買の実例。
アートは時代を映す鏡であり、より公正で包摂的な未来の可能性を見せる。 支援する作家は、どんな未来像を提示しているか? を常に問いたい。

すぐに実践できる7ステップ

  1. 学びの期間を宣言(まず1年):毎週1ギャラリー、毎月1フェア/オークション下見。
  2. 視覚日誌を付ける:気になった作品を撮影・メモし、なぜ良い/良くないか言語化。
  3. 予算の上限と配分を決める:初年度は小口多数、2年目から集中投下。
  4. 紙作品で所有経験:フレーミングまで含め“暮らしへの落とし込み”を学ぶ。
  5. 作家・ギャラリーと対話:制作背景、次の展示、価格レンジ、エディション情報を記録。
  6. 小さく買って深く知る:気になる作家は複数点/複数年で追い、文脈を自分の中に作る。
  7. 自分の軸を更新:バタフライ→テーマ→作家集中へ、段階的に“狭く深く”。

まとめ:第1部からの学び

  • 市場の“神話”ではなく、審美・情熱・支援を核に収集する。
  • 小さく始めて、続ける。経験値とネットワークが価値を生む。
  • コレクションはあなたの価値観とコミュニティへの関わりを映す。
  • 責任ある購買は作家の創作を支え、アートの未来を形づくる行為。

編集後記/次回予告

次回は「第2部:アートは投資として良いのか?」を取り上げ、価格形成やリスク、リターンの実態をデータで解説します。記事更新を見逃さないよう、 ニュースレター登録やSNSフォローをぜひ。

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