
東京・新宿三丁目。駅の出口から歩いて1分、現代アートのギャラリーbiscuit galleryで、4日間だけ開かれた展覧会があります。
シャイン・オン!アート展 ― 20周年のその先へ ―。小児がんや重い病気と向き合う子どもたちと家族を支えてきた認定NPO法人シャイン・オン・キッズ(Shine On! Kids)が、20周年を迎えた2026年に企画したチャリティ展です。会場は biscuit gallery(東京・新宿)、会期は7月29日(水)から8月1日(土)まで、入場は無料でした。
展示室の壁に並んだのは、「犬をモチーフに描かれた絵画」です。10名の若手作家による新作展です。
10人の作家が描いた、それぞれの犬


作家に共有されたテーマは「犬のいる風景」。油彩、レリーフ、陶。犬が主役として正面から描かれた絵もあれば、犬が部屋の一部として風景に溶けている絵もあります。

展示は小ぶりな作品を大きく間隔をあけて掛ける構成で、1点ずつ立ち止まらせる並べ方でした。会期4日、オープニングレセプションなしという設計とあわせて、賑やかさよりも1点ずつ見せることを優先した会場です。

タムロアヤノ《犬と植物のある部屋》は、910×727mm の画面に染付の壺と観葉植物が繁茂する室内画です。犬は画面のほぼ中央にいるのに、主役としては描かれていません。植物や模様と同じ密度で、部屋の一部としてそこにいます。

同じコーナーの右端が、青山夢《しっぽのすみか》。キルティングされた布が家のかたちに膨らんだレリーフ作品です。三角屋根には赤十字、その下の窓からは犬たちがのぞいています。寝具の手ざわりのまま立ち上がった「犬のいる家」。素材はポリエステル生地に油彩とアクリル、板。

展示風景。
床に置かれていたのは吉田みなみの陶です。《とけてゆく君と》は輪郭も毛並みも溶けかけていて、四つ足で立っているのがやっとに見えます。足元に《もふもふと太陽》が並び、2点で1つの風景をつくっていました。
出品作家は、青山夢、カトウ、高瀬栞菜、田野勝晴、タムロアヤノ、長田沙央梨、森ゆらら、山田美優、吉田卓矢、吉田みなみの10名。いずれも展示と同時に販売され、売り上げはシャイン・オン!キッズへ寄付されました。
ベイリー ― 日本で最初のファシリティドッグ

会場でひときわ大きかったのが、この淡いピンクの一点です。10名の作家に加えて、川内理香子が出品しました。

座った犬が赤い線だけで描かれ、そのまわりに B・A・I・L・E・Y の6文字と、骨が1本散らばっています。タイトルは《ベイリー》。
ベイリーは、日本で最初のホスピタル・ファシリティドッグの名前です。
ホスピタル・ファシリティドッグという仕事
ホスピタル・ファシリティドッグ®は、シャイン・オン!キッズの登録商標です。ボランティアで施設を訪問するセラピードッグとは違い、専任のハンドラーとペアを組み、特定の病院に「常勤」で勤務します。
ベイリーがハンドラーの森田優子さんとともに静岡県立こども病院で働き始めたのが2010年7月1日。この日はのちに「ファシリティドッグの日」として記念日登録されました。
子どもたちが描いた犬

向かいの壁は、入院を経験した子どもたちと、そのきょうだいから寄せられた絵で埋まっていました。公募で集められたものです。
犬の名前が大きく書き込まれた絵、ベッドらしき四角と犬が並んだ絵、青いベストを着た犬の絵。青いベストはファシリティドッグが病院で身につけるものです。子どもたちにとって、犬の姿とはまずあのベストなのだと分かります。1点ずつ、作家の作品とまったく同じようにキャプションが添えられていました。
アニーとアイビーが描いた2枚

《アイビー × 大橋真友子(ハンドラー)》と《アニー × 森田優子(ハンドラー)》。どちらも2020年、アクリル。作者名は、犬の名前のほうが先に書かれています。アニーの相方として名前が並ぶ森田優子さんは、ベイリーのハンドラーでもあった人です。
会場のキャプションにはこうありました。
2020年に実施されたクラウドファンディングのために制作された作品です。ファシリティドッグのアニーとアイビーそしてハンドラーがともに描いた特別な一枚です。犬とハンドラーが築く信頼、そして病気と向き合う子供達へ寄せる温かな願いが込められています。
作品の脇には、制作したときの記録写真が小さく貼られていました。床のマットの上でアニーが寝そべり、その横でハンドラーが描き上がった絵を持っている写真です。
シャイン・オン!キッズはこのほか、治療のひとつひとつをビーズに置き換えて記録する「ビーズ・オブ・カレッジ」、闘病を経験した子どもたちがつながる「シャイン・オン・コミュニティ」などのプログラムを運営しています。
初日、100×120cm のキャンバスを、みんなで
会期初日の7月29日、会場ではワークショップが開かれました。長く子ども向けのワークショップを手がけてきた ArtBar Tokyo の協力で、スタッフが進行役に入り、子どもたち10名ほどが約2時間かけて、100×120cm のキャンバス1枚を一緒に描き上げます。



床にビニールを敷き、アクリル水性絵具を出して、あとはひたすら塗る。手も服も汚れる前提の2時間です。

出来上がったのがこれです。星と花が画面を埋め尽くし、そのうえに黒い線で犬が1頭。星は、シャイン・オン!キッズのシンボルでもあります。
20周年のその先へ
会期は4日間。初日の午後がまるごと子どもたちの制作時間にあてられていました。
「20周年のその先へ」・・・、ベイリーが病院で働き始めてから16年、法人としては20年。その次の20年のために、犬を描いた絵が一堂に集められた4日間でした。